にゃんとま〜の放浪記


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★TPP交渉は新局面に突入した2014年5月13日
2014/05/13 12:04

※以下は、たねと食とひと@フォーラムに3回(2014年5月3日・10日・12日)に分けて投稿した記事である。

 4月24日、安倍首相とオバマ米大統領の日米首脳会談が東京で行われたが、共同記者会見直後に日米共同声明を出せず、翌25日にオバマ米大統領離日間際に発表という異例の展開となった。このことでマスメディアは各社それぞれ異なった反応をし、TPP日米協議について、基本合意に至っただとか、大筋合意しているが伏せて発表しているなどという社もあった。

 ※参考:日米共同声明4月25日(外務省)⇒ http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page3_000756.html

 そもそもTPPは秘密交渉であり、政府の情報開示は極端に少なく、したがってさまざまな憶測を呼び、TPPに関する報道はTPPに対する賛否や思惑によって非常に幅の広いものになっている。2010年秋の菅直人首相(当時)のTPP開国宣言以来、後になって誤報であることが判明したものも非常に多い。

 5月2日読売新聞は、1面トップ・4面記事で『検証・TPP日米協議』と題して、農業分野「重要5項目」は4月24日の甘利TPP担当相とフロマンUSTR(米国通商代表)との間で基本合意に達していたとの記事を掲載した。また自社記事以外の主要全国紙の見解を表にし、自社の報道が正しいとする念のいれようであった。

 この読売新聞や同じく基本合意したなどとするTBSの報道などに対して、政府のTPP対策本部の渋谷和久審議官は2日、これらの報道を否定する異例の説明会を開いている。以下、同審議官のブリーフィングの概要を記録した人のツィートをまとめたものがあるので、参考にしてもらいたい。

 ⇒http://twishort.com/J3ofc

 肝心要の日米協議の中身については、いったいどの報道が正しいのかというと、渋谷審議官の説明によると、日本農業新聞2日付の1面トップ+2面記事が「日米の協議の実態にかなり近い内容」(渋谷審議官)という。さらには、1日に開催された米上院財政委の公聴会でフロマンUSTRは、日本との協議で最終合意には至っていないことを明らかにしている。

 ⇒日本農業新聞5月2日『国境措置組み合わせ 重要品目を一括判断へ TPP日米協議』
http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27477

 また、米貿易専門誌「インサイドUSトレード」の5月2日付の記事によると、米政権担当官は、日米協議における前進とは、タリフライン毎のアプローチを用いて、センシティブな(重要な)産物のより多くの市場アクセスを創出するための可能な選択肢を特定したものだと特徴付けており、現在考慮されているパラメーターとは、関税を撤廃するのか引き下げるのか、関税を段階的に引き下げる期間の長さ、「市場アクセスを創出する他のメカニズム」を設定するかどうか、(設定するなら)どのように設定するかである。最後のメカニズムの設定とは、日本が完全な完全撤廃をせずに、追加的な市場アクセスを提供する関税割当制度のようなものであることがわかるとしている。

 さらに記事は続いていて、日米の(市場アクセス)協議が他の多国間市場アクセス協議や、未解決のルール分野の協議を進めるにあたっての、突破口になるとしている。

 米「インサイドUSトレード」誌の記事内容は、は渋谷審議官のブリーフィングや日本農業新聞の記事と概ね符合している。したがって国内メディアでは日本農業新聞の記事が真相に近いものと思われる。

 しかしながら日本農業新聞の記事「こうした形で議論を進めれば、日本が「聖域なき関税撤廃」を強いられる最悪の事態は避けられる見込みだ。しかし一部の重要品目で関税の引き下げや低関税輸入枠の拡大といった措置の受け入れが必至となり、農産物の重要品目の聖域確保を求める国会決議との整合性が問われる」にあるように、まさしく衆参両院の農水委決議に反することは明白である。

 ここで、日本のTPPに対する交渉姿勢を、少し遡って振り返ってみよう。

 2月22日からのシンガポールTPP閣僚級会合直前の2月20日に日本農業新聞の解説記事が全体を見通しているので、それをご覧いただきたい。

 ⇒日本農業新聞2月20日『TPP日米協議が重大局面 主張の根拠にずれ』
http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26067

 ここにあるように、そもそも日米間では交渉の根拠となるものが異なっていることを記事は解説している。日本は昨年2月の日米共同声明を、米国は2011年11月の「TPPの輪郭」を根拠にしているので議論が噛み合わない。しかし、このことは事前にじゅうぶんわかっていたことだ。それでは、シンガポール会合で日本がとった交渉姿勢はどのようなものだったのか。ここでも日本農業新聞に秀逸な記事があるので、ご覧いただきたい。

 ⇒日本農業新聞2月25日『重要品目の確保優先 米国関心「自動車」後回し 日本政府』
http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26157

  ここで日本は「自動車を人質に取る形で、重要品目を守る」作戦に出た。日本の農業重要品目での聖域確保で米国の譲歩を得られるまでは、米国の関心項目である自動車協議に入らないとしたのだ。

 しかし、米国は譲歩せず交渉は膠着した。この時点までは日本はギリギリ衆参農水委決議を守る姿勢だった。後述するが、この時点がターニングポイントとなった。

 このシンガポール閣僚級会合の報告を兼ねた業界団体への説明会を、3月5日に政府は政府TPP対策本部主催で開催した。そこで内閣府の渋谷和久審議官は、甘利担当相とフロマンUSTRとの間で、日米協議の協議方法について合意をみたと報告している。その協議方法とは日米双方とも実務者(事務方=交渉官)に権限を持たせて協議を進めて行き、最終段階になって閣僚協議を開き合意していくというものだった。「閣僚協議は記念撮影のようなもの」(甘利担当相)というコメントを紹介していた。この部分は意外と重要である。

 一方、このシンガポール閣僚級会合開催中に、別の動きをする人がいた。政府ではなく、自民党のTPP対策委員長の西川公也氏である。読売新聞5月4日4面の『検証TPPB』記事によると、シンガポール閣僚級会合のさ中の2月24日に、会場となったホテルの一室で、西川氏とオーストラリアのロブ貿易・投資相と会談していたとしている。記事は西川氏の調整が功を奏し日豪EPA交渉が急展開し4月7日に合意に至った背景を解説している。

 当時、日本農業新聞も報じているので参考までにご覧いただきたい。

 ⇒日本農業新聞2月25日『日豪EPA 合意日程4月に照準 牛肉関税具体化も 豪貿易相が自民・西川氏と会談』
http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=26156

 自民党の農水族議員関係の観測筋によると、膠着する日米協議を尻目に、西川氏は「肉を斬らせて骨を断つ」という表現を使って、日豪EPA交渉を進めることで、日米協議で米国の譲歩を引き出す作戦だと豪語していたという。しかし、本当にそういう作戦だったのだろうか。

 いずれにせよ、日豪EPAは4月7日に大筋合意に至った。問題は内容である。なお、7月に安倍首相がオーストラリアを訪問してそこで正式合意に至るとされている。

 マスメディアは日豪EPA大筋合意を、専ら牛肉関税の段階的半減を焦点にして解説している。その牛肉関税半減に関しては、以下の記事がまとまっている。

 ⇒日本農業新聞5月1日『[日豪EPA大筋合意 どうなる重要品目 1] 牛肉 低関税輸入枠で対応』
http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27455

  ここにあるように、段階的に牛肉関税は引き下げられ最終的には半減するが、同時にセーフガードを設けているので、事実上の関税割当(低関税輸入枠)である。確かにセーフガードの発動条件を厳しくすれば、その通りではある。

 しかし、この日豪EPA大筋合意は06年12月に全会一致で決議した衆参農水委決議に反していることは言うまでもない。TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会が4月16日に声明を出している。

 ⇒TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会『日豪経済連携協定(EPA)の大筋合意に関する声明』
http://atpp.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/epa-56f8-1.html

 ところで、大筋合意は牛肉関税についてだけになされたのではない。この記事は連載記事の1回目のもので、全体で5回の連載になっている。2回目以降はチーズ、米・砂糖・小麦、豚肉、オレンジとなっている。さらに、そればかりでもない。

 農林水産省は、HP上で逐次農林水産物の日豪EPA大筋合意の内容をプレスリリースしている。以下にリンクを貼っておく。

 ⇒日豪EPA大筋合意について
http://www.maff.go.jp/j/press/kokusai/renkei/140407.html

⇒畜産物関係
http://www.maff.go.jp/j/press/seisan/c_shokuniku/140417.html

⇒水産物関係
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kakou/140418.html

⇒農産物関係
http://www.maff.go.jp/j/press/seisan/kikaku/140418.html

⇒林産物関係
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/boutai/140422.html

⇒加工食品関係
http://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/seizo/140422.html

 これらの中で、即時関税撤廃になるもの、段階的関税撤廃になるもの、季節を限定して段階的関税撤廃になるもの、現在低関税枠ではあるが、枠は維持し枠内の関税を段階的撤廃になるものを合わせると、つまり即時かどうかはともかく関税撤廃になるものは195品目以上になる。これはマスメディアの記事にはほとんど載っていない。

 たとえばイ草は7年でかけて段階的に関税撤廃になり、畳表やイ草製品は4年で関税撤廃になるが、岡山県や熊本県の生産者は把握しているだろうか。

 この他、再協議を予定しているもの、関税が削減になるもの、関税割当の数量を段階的に引き上げていくものもある。これら全体を見渡していくとおぼろげながら、交渉の駆け引きが見えてくる。

 つまり、再協議つきの除外・関税削減・関税撤廃・セーフガード・関税割当・低関税輸入枠などあらゆる手段を用いて重要5品目を含む農林水産物全体を対象に交渉が行われ、大筋合意に至ったのである。マスメディアは牛肉関税ばかりを報道していたが、当たり前だが牛肉以外の関税交渉も同時に行われていたのだ。

 ところで上段で日米協議の内容について米「インサイドUSトレード」誌の記事を引用したが、ここでわかりやすく意訳し直してみると以下のようになる。

 「農産物重要品目を極力市場開放するため日米は可能な選択肢を挙げて協議をすることとした。現在考慮中の方程式(パラメーター)は、関税撤廃もしくは関税引き下げ、関税撤廃もしくは最終的な引き下げまでの期間、関税割当制度(低関税枠)、セーフガードなどである」。

 つまり日豪EPAもTPP日米協議も同じような交渉をしていることに気付かされる。

 日本が農水委決議をギリギリ守る交渉をしていたのは上述のように2月シンガポール会合までであったことがわかる。そこで新たに協議の手法で日米合意し転換を図ったのである。同時に自民党の西川氏がオーストラリアと「調整」に入った。これは読売新聞が「武勇伝」として伝えるようなものだったかどうか。個人の判断の筈はないだろう。

 むしろこう解釈できないだろうか。上段で「意外と重要だ」と書いたように、日米で協議の方式を合意していた。3月5日の渋谷審議官の説明によるとこの合意はいったん18日になされていたから、西川・ロブ会談の前。さらに18日以降、再び決裂したが最終的には24日夜に合意したという。つまり日豪EPA交渉も日米協議も、日本の農産物市場開放の目的で同じ方式で協議・交渉していたのではないだろうか。

 2月末のシンガポールTPP閣僚会合までは日本の交渉姿勢はギリギリ農水委決議を守る方向であった。ところが、この会合時に、日本は改めて日米協議のやり方を米国と合意した。同時に、西川公也・自民党TPP対策委員長が閣僚会合のさ中の24日、ロブ豪貿易・投資相と会談。日豪EPA交渉を加速させる方向で話をまとめた。このシンガポール会合で日本は交渉姿勢を転換させたと思われる。

 以降日本は4月7日に日豪EPA大筋合意に至った。再度強調しておくが、この交渉は日米協議と同じ手法を用いたと見られる。またマスメディアでは取り上げられていないが、農林水産品195品目以上が、即時ないしは段階的、季節の関税撤廃に合意している。これにまつわる国内の影響と隠された目的については別記事で取り上げることにする。

 現在進められている日米協議では、関税の撤廃・引き下げ、関税撤廃・引き下げにかかる期間、低関税輸入枠および枠内関税の段階的撤廃ないしは引き下げと枠の段階的引き上げ、セーフガードの導入および発動条件などの組み合わせで着地点を見出すこととしている。繰り返しになるが、これは日豪EPA交渉でも同じであったと考えられる。

 さて、4月下旬にオバマ米大統領が来日して、日米首脳会談が行われることになった。大統領来日に際して、日本は「国賓待遇」で迎えることも決定した。しかしながら、慣例で国賓待遇するには大統領に2泊3日してもらわなければならない。25日には大統領は離日し、次の訪問国である韓国に向かうことになっていた。米国側は24日来日25日離日を主張していた。これだと国賓待遇にはできない。ギリギリの調整が続き、直前になって大統領の23日来日が決まった。

 この日米首脳会談と日米共同声明について、3人の論者の論を紹介しておきたい。

 まずは、政治評論家の野上忠興氏の論。

 ⇒日本農業新聞2014年5月1日『TPP攻防 ”補選怖さ”で踏み込めず 政治ジャーナリスト 野上忠興』
http://twishort.com/BTofc

 この論で大事な部分は、外務事務次官・齊木昭隆氏が14日に訪米し、その報告を安倍首相に上げているという点である。ただ、TPPに関する見方は私の説とは異なる。

 続いて、反米保守の立場の論客である東田剛氏の論。なお、周知のとおり、この名前は中野剛志氏のペンネームであることは、サイト内の至る所を見ても伺える。

 ⇒東田剛2014年4月30日『予想を外した東田剛』
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/04/30/korekiyo-94/

 大事なのはこの部分である。

 「結局、こういうことだったと思われます。

そもそも、日本側が、オバマ訪日を強く希望し、尖閣に関する米国の立場をわざわざ共同声明で確認することに固執した。

そこで、米国は何も失わずして交渉を有利に進められるチャンスが訪れたと判断し、共同声明の文言を人質にとったのです。

その共同声明が出たということは、日本はおそらく何らかの大幅譲歩をした。こう推測できるわけです。」

 なお、念のため、この論者の持っていきたいであろうと思われる日本の核武装を含む再軍備にたいして、私は否定的であることを記しておく。

 最後に、外交評論家の孫崎享氏の日本農業新聞での見解を挙げておく。

 ⇒日本農業新聞2014年5月9日『[解説 TPP交渉の今後 識者に聞く 2] 国益守る“とりで”に 元外務省国際情報局長 孫崎享氏』
http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27592

 この記事の「今回の日米首脳会談で「米国は安保で譲ってTPPで取ろうとした」といわれるが、それは違う。会談後の共同会見でオバマ大統領は、尖閣諸島は日米安保の適用対象と言ったが、「ヘーゲル国防長官もケリー国務長官も日本側に言ってきたことだ」と付け加えた。日本が実質的に取ったものは何もない。単に大統領に言わせただけだ。」の部分は東田剛(中野剛志)氏と一致している。

 東田剛(中野剛志)氏が指摘しているように、「日本はおそらく何らかの大幅譲歩をした」とすればいったい何であろうか。

 自民党の比例区の参議院議員で元JA全中専務理事の山田俊男氏のブログに興味深い記述がある。

 ⇒2014年4月28日山田俊男『共同声明から消えたセンシティビティ』
http://ameblo.jp/toshio-yamada/page-2.html#main

 この「そこ(引用者注:日米共同声明)には、安倍総理が昨年2月に訪米し、オバマ大統領と共同声明に盛り込んだ「両国には貿易上のセンシティビティがある」との文言がどこにもありませんでした」は極めて重要である。

 先の4月7日の日豪EPA大筋合意は、大学教員の会が声明を出したように、06年12月の国会決議を破っている。そして日米共同声明では昨年の日米首脳会談の際の共同声明にあった「センシティビティ」が外された

 いささか長くなりすぎたので、【結論】を含め、稿をまとめておきたい。不足する部分は別記事としてupすることにしたい。

【まとめと結論】

@  2月のシンガポール閣僚会合までの日本の交渉姿勢は衆参農水委決議をギリギリ守るものであった。

A  その会合で日本は交渉姿勢を転換した。同時に日豪EPA交渉を加速させた。

B  TPP日米協議と日豪EPA交渉は同じ交渉方法である。

C  日豪EPA交渉は大筋合意したが、これは06年12月の全会一致の衆参農水委決議に反している。

D  日米共同声明ではセンシティビティの文言が外された。

E  日米首脳会談で日米共同声明が出た以上、文言に関わらず日米協議は新局面に突入した。

F  現在進められている日米協議は合意に至る可能性が高く、そうなるとTPP交渉は加速すると思われる。

G  日豪EPA大筋合意と同様、TPP日米協議合意は衆参農水委決議を破ることになる。

カテゴリ:TPP

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